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映画「海嶺」 彼らのその後 音吉編 神の恵みとその裏話 ㉖

更新日:2023年6月1日

映画「海嶺」の岩吉、音吉、久吉が協力した日本最古の和訳聖書、いわゆるギュツラフ訳聖書の功績をたたえて、彼らの出身地である愛知県知多郡美浜町に「聖書和訳頌徳碑」があるのをご存じでしょうか。

愛知県美浜町「聖書和訳頌徳記念碑」

 1961年に建てられて以来、美浜町と日本聖書協会が交互に記念式典を主催して「聖書和訳頌徳碑記念式典」が行われてきました。

さて、漂流から約5年の月日がたって、やっと日本に戻れるかと思った彼らを乗せたアメリカ船を、幕府は「異国船打ち払い令」を持って砲撃し、追い返してしまいます。(モリソン号事件)

 彼らに合流した九州天草の漂流民の一人、寿三郎が後に郷里に送った手紙の中に、「イシビヤテッポウウチダサレ ソノイシビヤのタマデ、岩吉ワズカナコトデ アヤウキイノチヲモウケ」とあります。映画の中でも、このシーンが再現されています。

 また、同船していたパーカーやウイリアムらは、彼らの著書で「岩吉たちは、祖国を捨てたしるしに、頭を剃ってしまった」とあります。映画では、髪を断髪して決意を表しています。

映画「海嶺」より©1983WORLD WIDE PICTURES,INC.

ところが、映画や小説と違う点があります。ウイリアムズは、音吉のことばを紹介しています。「We will try again」(もう一度やってみよう)。彼は失望せず、希望を持っていたことが分かります。

では、彼らはその後、もう一度「トライ」出来たのでしょうか。

モリソン号は仕方なくマカオに戻り、音吉ら7名はそれぞれの生活を始めていきます。

音吉と力松は信仰を持ち、1838年頃にアメリカに行ったという説があります。アメリカ聖書協会にて「ギュツラフ訳は、自分の訳が正しいのかどうかわからない」と打ち明けたそうです。そのせいか、聖書協会が要求する基準に達していないと印刷が打ち切られます。

聖書翻訳は通常、聖書学者によって原典のヘブル語、ギリシャ語から訳されます。キリスト教のことも良くわからない、尾張弁の彼らの訳は、いわいる日本の「リビングバイブル」のような意味では大変価値があったと思います。

そして、ローマ字を作ったヘボンはその聖書を持って、1859(安政6)年、日本へやって来ます。

音吉は、マカオから上海に渡ります。そこで、デント商会という商社に勤務して、成功を収めて行きました。デント商会の中国名が「宝順洋行」といって、音吉たちが漂流した船の名前が付いていることからしても、音吉の会社への影響力を感じます。

1849年に中国から日本へ来航した際の音吉

イギリス人女性(マレー人という説もある)と結婚して娘に恵まれたものの、妻にも娘にも先立たれてしまいます。娘メアリーの墓は、晩年、音吉が住まいとしたシンガポールに残っているそうです。

1862年(文久二年)には太平天国の乱で混乱する上海から、シンガポールに再婚したルイーザと移住。その二年後には日本人として初めてイギリスに帰化し、「ジョン・マシュー・オトソン」と名乗っています。

さて、一番の関心は彼が日本に来たかどうかです。1849年(嘉永2年)4月8日、イギリス東インド会社艦隊の帆船マリナー号が浦賀湾の調査に来ます。これに音吉が通訳として同行していますが、中国人「林阿多」と名乗っていました、砲撃体験が、日本人名を語ることを拒ませたのかもしれません。もう1回は、1854年9月にイギリス極東艦隊司令長官スターリングが長崎で日英交渉を開始したとき、再度来日し通訳を務めています。

その際、日本に帰国することを勧められますが、音吉は英国国旗を指したそうです。家族が上海にいましたので、漂流して日本の家族を悲しませたようなことはしたくなかったのでしょう。

 彼の働きは、通訳だけでなく、同じように漂流した「栄寿丸」や「栄力丸」の漂流者たちをサポートしています。

遣欧使節団 左から2番目 福澤諭吉

また、シンガポールに寄った遣欧使節団の福澤諭吉らに、国際情勢を伝えているのも音吉です。今年(2022年)の「聖書和訳頌徳碑記念式典」にて、美浜町長は、「外交官としての音吉の役割の大きさが日本で知られていないのが残念だ」と語っていました。

 1867年(慶応3年)、息子に自分の代わりに日本へ帰って欲しいとの遺言を残し、49歳でシンガポールにて病死します。

息子のジョン・W・オトソンは1879年(明治12年)に日本に帰り、横浜で日本人女性と結婚し、父親の名である「山本音吉」を名乗り、日本国籍を取得しました。

「We will try again」(もう一度やってみよう)の彼の日本への思いは、息子によって叶えられたのかもしれません。

その他九州組を加えた6名のその後の情報は、特典映像で紹介しています。


参考文献

・海嶺(三浦綾子)朝日新聞社

・にっぽん音吉漂流記(春名 徹)晶文社

・音吉伝(篠田泰之)新葉館出版

・ウィキペディア

・「にっぽん音吉漂流の記」美浜町ホームページ

・日本聖書協会 ホームぺージ




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